効用最大化問題

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ラグランジェ関数の経済学的意味

ラグランジェ関数の経済学的意味を簡単に述べましょう。ラグランジェ関数は



と表せましたね。この表現を少し変更して、



とします。そうすると、制約式の部分は、所得から支出額を引いたものになります。つまり、残金を表しています。また、λは貨幣の限界効用を表しています。(これは間接効用関数を学んだあとに証明します。)貨幣の限界効用は、貨幣1単位当たりから得られる効用です。となると、(貨幣の限界効用×残金)は、残金からの効用を表しているのです。したがって、ラグランジェ関数は物質からの効用に残金からの効用を加えたものなのです。

理解を深めるために少し言い換えましょう。今、予算制約下での効用最大化問題を考えようとしています。したがって、残金からの効用を組み込んだ新しい効用関数を考えればいいということになります。しかし、残金の単位は(日本においては)「円」です。これでは、単に効用関数と足し合わせた場合、効用と残金を足し合わせては一体何の数値かわかりません。そこで、残金の単位を効用に変える必要があるのです。したがって、λという1円あたりの効用を残金に掛けることで、「残金からの効用」とすることができるのです。つまり、λというファクターによって円の単位を効用に変換したのです。これにより、物質からの効用と貨幣からの効用を足し合わせたラグランジェ関数という新しい関数を設定することができたのです。

このように予算をも考慮した新しい関数を設定してあげたことで、物質から得られる効用を増やそうとすると、残金からの効用が減少し、残金からの効用を増やそうとすれば、物質からの効用が減少するという関数にすることができます。したがって、この関数を最大化する点が予算制約下での効用最大化する点となりうるのです。これが、効用最大化問題でのラグランジェ関数とλの経済学的意味です。

効用に関する議論 序数的効用と基数的効用

さて、効用というものを定義して経済分析を行ってきましたが、効用そのものに関する議論として、効用が基数的なものなのか、序数的なものなのか、というものがあります。

これは、単純な疑問からこの議論が開始できます。その疑問というのは、「私の効用とあなたの効用を比べることは可能なのでしょうか?」「私の効用が3倍になったとき、私は3倍うれしいのでしょうか?」「今、私の効用が15って計算ででたけども、効用が15ってどれくらい?」「効用の1単位というのは、どれくらいの満足度のことをいっているのだろう?」というものです。

効用という概念が生まれたばかりのころ、効用の1単位というものは意味をもつものでした。この効用は基数的効用(cardinal utility)といいます。このころ、ベンサムという学者が最大多数の最大幸福という価値を考え、民衆の効用の総和が最大になるように政策を打つべきであるとしたのです。基数的効用の立場からすると、効用1ということに意味があります。それは水1gが具体的な量として意味があることと同じです。この立場だと、私の効用とあなたの効用を比べることができます。限界効用逓減が成り立つ世界なら、お金持ちの人に100万円あげるより、貧乏な人に100万円上げたほうが民衆全体の満足度の総和が上昇するということも結論づけることができます。私の効用が3倍になったとき、私の満足度も3倍になっていると結論づけれます。つまり、基数的効用ならば比較可能な効用を表しているのです。

しかし、効用は比べることができるのでしょうか?私の効用とあなたの効用を比べることができるのでしょうか。効用という概念について議論が進められていくうちに、このような疑問が生まれます。そこで、エッジワースが効用関数ではなく、無差別曲線という概念を提唱しました。「効用1単位に具体的な意味を持たせなくてもいい。好みの順序だけわかれば、需要曲線を描くことができる」ということを証明したのです。つまり、「どのくらい好きか」はわからなくても、「どちらが好きか」がわかれば十分であるということを証明したのです。このように、効用は選好の順序だけを表せばいいという効用の考え方を序数的効用(ordinal utility)といいます。(無差別曲線と序数的効用を結びつけたのはパレートという経済学者です。)

経済学者は「一般化」が好きなことが多いです。「一般化」というのは簡単にいうと仮定を取り外すことです。言い換えると、仮定を取り外しているわけですから、より多くの事情についてその理論を適応することができるのです。厳密にいえば「ある公理群によって証明された命題を、より少ない公理群によって証明する」ということです。序数的効用というのも、基数的効用からの一般化ととらえてもいいです。

まぁ、この話をしていると長くなりそうなので、小難しい話はおいておいて、要点だけ述べましょう。序数的効用の立場をとる場合、効用関数を正の単調変換をしてもかまいません。なぜなら、正の単調変換をしても順番が変わらないからです。正の単調変換とはルートやlogをとったりすることです。1変数の場合の厳密な定義は、定義域において、効用関数u(x)をf'(・)>0となる関数fにおいて、f(u(x))とすることを正の単調変換といいます。

たとえば、u=xyという効用関数があったなら、logu=logxy=logx+logyとしてもいいのです。また、最適な消費量、需要曲線を導き出す場合も単調変換してもかまいません。効用関数を単調変換しても最適な消費量、需要曲線の形状に影響を与えないためです。

こんな風に述べると、序数的効用が優れているように聞こえるかもしれませんが、決してそんなことはありません。私の知る限り、序数的効用と基数的効用の議論に終止符がうたれているとは思えません。また、今後でてくる期待効用仮説では、基数的効用の立場をとります。最近の神経経済学では、脳の分泌物から効用1単位を定義、計測しようとする動きもあります。

期待効用仮説を唱えたフォン・ノイマンモルゲンシュテルンが著書の中述べていたことに私も同感しています。現在では当たり前のように基数的として扱われている温度という概念も、昔は序数的か基数的かということで議論をしていました。つまり「人間がより熱いという感じる温度」という尺度が比較可能であるのかどうかということを論じたように、人間がより満足するという効用という尺度が基数的なものではないと結論づけるのはまだ早いのです。そして、効用が基数的な表現で表せるという勇気を失ってはいけないのです。モルゲンシュテルンが述べたように。

さて、次のページでは、今までのまとめとして最後に計算例を載せ、また、ラグランジェ関数では計算できない例を二つのせます。そして最後に代替の弾力性とCES関数について載せてこの章を終わることにします。


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