全微分の直感的理解 の続き
まず、2変数の場合どのような形になるのでしょうか。直感的に目星をつけてみましょう。偏微分が
でしたから、1変数の場合と同様に
となります。上の式がxのみを増加させた場合、下の式がyのみを増加させた場合です。となると、xもyも増加させた場合はこの二つを足し合わせたものになるのではないのでしょうか?
つまり
と目星がつけられるのです。そして微分可能である条件は、誤差がはやく0に近づけばいいので
となります。この式の意味を、前のページで議論した距離と向きの関係をきちんと考慮して言い直すと、2変数関数における全微分可能というのは、ベクトル(Δx,Δy)が(0,0)に近づくとき、あらゆる(0,0)への近づき方に対して誤差εが「(Δx,Δy)の距離」よりもはやく0に近づくことが要求されるのです。
したがって、
のとき、全微分可能であるといい、そのとき、fの微分dfを
とあらわします。これが全微分可能の定義です。全微分と偏微分を区別するために前者をdf、後者を∂fで表します。他の教材では
と、εに代入した形で全微分可能を定義することもあります。1変数の場合の微分が接線式をあらわしていたのと同様に2変数の全微分は3次元の関数(立体のグラフ)の接平面を表しています。3変数の場合は立体が4次元の関数に接していると考えられますが、もう考えられません。そこで、3変数以上の全微分の式は超平面(hyperplain)が接しているといいます。つまり、dfはxとyがそれぞれdx,dy変動したときの接平面までのfの変化分を表しているのです。∂fは1変数だけ動いたときの接線までのfの変化分であったから、dと∂は全く違う意味を表していますね。
ちなみに、xについて偏微分可能、yについて偏微分可能でも全微分可能とは限りません。全微分可能ならxについて偏微分可能、yについて偏微分可能です。
さて、今まで小難しいことをしてきましたが、計算テクニックだけを考えると偏微分の計算ができる人は全微分の計算もできますね。ここで少し計算例をだしておきます。
だから
です。もうひとつ計算例をだしましょう。
したがって、
となります。つまり、xで偏微分したものにdxをつけてyで偏微分したものにdyをつければいいのです。
ちなみに3変数、または3変数以上になった場合も全微分は同様にできます。3変数関数、たとえばu=f(x,y,z)だった場合、
となります。2変数の場合の全微分と3変数の場合の全微分を比べると、4変数や5変数、n変数の場合の全微分も予想できますね。
そういえば、前のページで北から近づいたとき、東から近づいたとき、北東から近づいた時の「傾き」が異なる、という話をしていました。上の例で少し試してみましょう。まず、東から近づくということを数式で表すために、x軸のプラスが東、マイナス側が西、y軸のプラス側が北、マイナスが南としましょう。
まず東から近づくというのは、x軸方向のみから近づくという意味ですから、Δy=0として、Δxを0に近づけて,df/dxを求めてみましょう。このとき、dy=0となりますから、
となります。北から近づくのは、Δx=0として、Δyを0に近づけるのですから、dx=0にしてdf/dyを求めてみましょう。
となるのです。最後に、北東を考えましょう。これはΔy=Δxという関係、言い換えればdy=dxという関係を保ちながら、(Δx,Δy)を(0,0)に近づけるのです。このときのdf/dxを求めてみましょう。(気を付けるのは、この比率の意味は、xが1単位増加したときのfの増加分ではなく、xがdx=dyという関係を保ちながら1単位増加したときのfの増加分という意味です。つまりxもyも一単位増加しているときの、fの増加分です。)このとき、
となります。全部異なりますね。もちろん、北北東から近づくとき、東北東から近づくときなどなども計算できることになります。
最後に接平面のグラフをのせてこの節を終えます。偏微分の章にある図と同じようにして点(1,8)を通るようにx軸とy軸にスパッと切った式とそれぞれの点でのxとy軸方向の接線を書きました。その二つの接線から作られる平面が点(1,8)においてグラフと接する接平面の式です。(右の図をクリックしてください。)
次のページで、全微分の理論的な理解をしていきます。