陰関数の定理入門

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4.陰関数を唯一にするために

が0になるというだけだと、沢山の関数が決まってしまう。じゃあ、始まり(x)と行き先(y)を決めてしまえば関数は一つに決まるかもしれません。

つまり、右の図のように



のとき



となり、



となる関数fは?と聞かれれば



しかないのです。つまり関数が唯一に決まります。更にその点付近(開近傍)でも関数が唯一に決まっています。(右上の図を2回クリックしてください。)つまり、点付近を通るというルールをつければ、xとyの関係が唯一に決まります。しかも微分可能になりそうです!

しかし、ちょっとxとyの選び方を間違えると、その点の付近(開近傍)で関数が唯一に決まらない場合がありそうです。たとえば右の図のようなx=1、y=0の場合です。この点では、点の付近においてxが決まると、点(1,0)の付近を通るというルールを課してもyが二ヵ所決まってしまいます。(右の図を4回クリックしてください)つまり、このような点と点の付近では関数fが定義できません。では、この関数が決定できない点の性質はなんでしょうか?それはこの点の接線が垂直になっているということです!(右の図をクリックしてください。

では、この点の接線の傾きが垂直のは数学的にどのような時なのでしょうか。このグラフについて思い出してみると、このグラフはF(x,y)=0のグラフです。このグラフ上を動いてもF(x,y)の値は0から変わりません。言い換えればこのグラフの上を動いてもΔFは0です。 また、接線が垂直になっているというのは、この点でグラフ上を通るようにyをほんの少し動かしてもxは動かない(つまりΔx=0)という意味ですよね。グラフ上を動くということはΔzが0という意味でしたから、さきほどのことをまとめると、接線が垂直であるところでは、xを動かさずに(Δx=0)yを動かしても(Δy≠0)、Fは0から動かない。(ΔF=0)。これはつまり、F(x,y)をyで偏微分したら0だってことじゃないですか?



つまり、上の式が満たされる時には陰関数は唯一に決定できない(厳密には、決定できるとは限らない)のです。これらの主張をまとめたものが陰関数の定理なのです。厳密に陰関数の定理を書きましょう。

陰関数の定理

関数は点のある近傍で連続微分可能とし



とする.このとき,の十分小さい近傍において



を満たす連続な陰関数が唯一つ存在する.そして,は連続微分可能であり



を満たす.


陰関数が唯一存在するのがわかり、それが連続微分可能であることがわかるだけでなく、具体的な陰関数の形がわかっていなくても、F(x,y)の形さえわかっていれば、その点の陰関数の傾きはわかってしまうのです!これが陰関数の定理のすごいところなのです。つまり、皆さんが当たり前のように使っていたある点でのMRSを導出するには、実は陰関数の定理によってMRSの存在が保証されていたんですよね。だから、上級レベルのミクロでは、MRSが導きだせるということを陰関数の定理を使って証明するのです。他にも比較静学などで陰関数の定理は多用されますので、この定理は重要であるということになるのです。

なお、陰関数の証明はまた今度に違う章でしますね。それでは、この章を終りにしたいと思います。


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