陰関数の定理入門

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1.イントロダクション

ここでは、陰関数と陰関数の定理の直感的な理解を目指して作った章です。陰関数の定理の厳密な定理は載せていませんが、陰関数の定理の定理の意味がわかるはずです。陰関数の定理の厳密な証明は他の章で作る予定です。さて、陰関数の定理とはこのようなものです。

陰関数の定理

関数は点のある近傍で連続微分可能とし



とする.このとき,の十分小さい近傍において



を満たす連続な陰関数が唯一つ存在する.そして,は連続微分可能であり



を満たす.


これの意味がすぐにわかる人は、この章を読まなくて大丈夫です。これが何を意味しているのかというのをこの章では説明していきます。

2.陰関数ってなんだよ

陰関数とは、関数F(x,y)がF(x,y)=0を満たすときに与えられるyとxの関係のことをいいます。(2変数の場合)なんで右辺が0かというと、そう基準化したほうがいろいろと便利だからですし、F(x,y)=1とかだったら、G(x,y)=F(x,y)-1=0という風にして右辺を0にする関数にすることができます。また、直感的にも右辺が0のほうがわかりやすいのです。

さて、このような説明だと、なかなか直感的な理解は得られないので、効用関数と無差別曲線を使った例を考えましょう。ミクロ経済学で効用関数などを学んだ人は、次のような三次元の効用関数があると、ある効用 における「無差別曲線」がある、というのを良く使いましたよね。そうすると例えば



なんて効用関数があれば、



と書き直して、これが、効用をもたらす無差別曲線の式だ!なんてしたはずです。この式はyについて明確に解かれてある関数だから陽関数(explicit function)といいます。無差別曲線の式がわかれば、この無差別曲線の傾きが



で、限界代替率(MRS)を



だと求めることも可能ですね。さて、そうすると無差別曲線を表す関数



がありますから、この関係を



という関数fで表すことにします。では、この関数fが陰関数となる場合を考えてみましょう。まず陰関数は何かしらの関数F(x,y)がF(x,y)=0を満たすときに[F(x,y)=0に対応する陰関数f(x)」として存在します。だからまずF(x,y)=0を作らなければなりません。そこで,



とF(x,y)をおいてあげます。そうすると、「関数y=f(x)は関数F(x,y)=0に対応する陰関数である」と表現できます。つまり効用をもたらす無差別曲線y=f(x)は



の陰関数である。と表現できるのです。

そんな面倒なことをしなくても、さっきの陽関数のように解けばいいじゃないか、と思うかもしれません。しかしさきほどは、効用関数を簡単な形に特定したから、無差別曲線の形状も、また、MRSもわかりましたけども、効用関数が難しい形や一般形で書かれたらどうしましょう。つまり



と、書かれた場合、無差別曲線は存在するのでしょうか?MRSはわかるのでしょうか?上の式はyについて解くことは難解ですね。下に関しては解くことはできません。でも実は皆さん、効用関数の形状や無差別曲線の形状がわかっていなくても、MRSはよく導き出しているんです。そう、だって、



ですから。(この式がわからない人はミクロ経済学、効用関数と予算制約の章で説明します。(現在作成途中))でも、これはどんな効用関数にも言えるのでしょうか?実はいえないのです。じゃあ、どんな時にいえるの?という疑問に応えるのが「陰関数の定理」になります。(というか、MRSがある条件の時に上記のように表現できるというのが陰関数の定理そのものを使って証明されています。)

さて、まず初めに直感的に「陰関数」というものを理解しましょう。ぴーすけ講座のミクロ中級編、「効用関数と予算制約」で無差別曲線を図的に理解するとき、以下の説明を用いました。

(抜粋)「では、ある効用を得るxとyの組み合わせを図的に導きます。右の図のようにある効用があります。その点を通る地面(x-y平面)と平行な平面を書きます。(右の図をクリックしてください。)そうすると、その平面で効用関数がスパッと切れます。その平面で切られた赤い線はすべて高さがと同じということになります。そして、その赤い線を地面(x-y平面)に下ろします。(右の図を2回クリックしてください。)つまり、地面(x-y平面)に描かれた曲線上のxとyの組み合わせはすべて、効用を得られるということになります。それを上から眺めてみましょう。(上の図を2回クリックしてください。)x-y平面上に反比例みたいな原点に凸な曲線が得られましたね。さきほど説明したように、この曲線上では同じ効用を得られます。したがって、この曲線は同じ効用を得られる無差別曲線なのです。(上の図をもう一回クリックしてください)」

この説明では、ある効用を通る平面で効用関数をスパッと切って、切り口をx-y平面に落しました。これとさきほど説明した、「効用を得る無差別曲線はU(x,y)-=0の陰関数だ」というのが同じであることを説明します。この関数F(x,y)は、効用関数をほど平行に下へずらした関数です。新しい関数を次の図のように表現できます。



図的にからを引いてに変えてみましょう。まず、関数U(x,y)を下にほどずらします。(右の図をクリックしてください)そうすると、縦軸はUではなくてになります。そして、でだった場所が、0になります。(右の図をクリックしてください)そうすると、x-y平面にyとxの関係(無差別曲線)ができますよね。これはさきほど説明した効用でスパっと切ってx-y平面おろしたのと変わりありません。これがF(x,y)=0の陰関数f(x)です。(右の図をクリックしてください)つまり、



となるとき、



を満たす関数が存在するならば、それをF(x,y)=0の「陰関数」と呼び、



なのです。


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